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麻酔のながれ



全身麻酔の必要性

動物医療において全身麻酔というものは必要不可欠な処置です。
外科的な手術だけでなく、歯石除去やCT検査やMRI検査にも麻酔は必要になります。
人間と違い「動かないでください」と言っても動かないでいられる子はほとんどいません。
そのためどうしても動かないでいてもらわないといけない場合には、たとえ手術ではなくても全身麻酔が必要となります。

麻酔の適応:外科手術、歯石除去、CT検査、MRI検査、整形学的検査など

バランス麻酔

麻酔をかけるためには麻酔の4要素というものを満たす必要があります。
4要素とは「鎮静/催眠」、「鎮痛」、「筋弛緩」、「有害反応の抑制」です。
鎮静 おとなしくなり、周囲に無関心になること
催眠 意識を消失し、眠った状態になること
鎮痛 痛みの感覚(痛覚)を消失させること
筋弛緩 筋肉の緊張を消失すること
動物の反射を抑制することができます
有害反応の抑制 麻酔による心拍数の低下を抑制することなど
単一の麻酔薬ではこれらの4要素を満たし、呼吸器系や循環系を維持することは難しいです。
そこで、作用を最大限にし、かつ副作用を最小限にするように複数の薬剤を使用した麻酔を「バランス麻酔」と言い、この概念を基に麻酔計画を立てていきます。

麻酔のながれ

麻酔前評価、麻酔前投与、麻酔導入、麻酔維持、麻酔覚醒・抜管、覚醒後の管理と6つの段階を経て行います。

麻酔前評価

術前に様々な検査を行うことにより麻酔をかける前の身体の状態を評価します。

全身麻酔には少なからず様々なリスクがついてきます。動物医療では、不妊手術や去勢手術など健康状態の子にも麻酔が必要となることが多々あります。また、状態の悪い子において治療のために麻酔をかける必要があることがあります。いずれにしても麻酔をかける前に麻酔をかけるにあたっての身体全体の評価を行うことが安全に麻酔をかける上で重要となります。


評価項目としては、血液検査、尿検査、レントゲン検査、腹部超音波検査、心臓超音波検査などを行います。

必ずしも全ての動物にこれら全ての検査を行うわけではなく、それぞれの動物に必要と考えられる検査を選択して評価します。
血液検査 主に全身状態の評価を行います。
貧血の有無や腎障害の有無、肝臓疾患の有無など麻酔における高リスクの状態であるかどうかを評価します。
出血を伴う処置においては血液凝固の評価も重要な評価項目となります。
尿検査 尿糖の有無や尿蛋白、尿比重など内分泌系の疾患や腎臓疾患、下部尿路の疾患の評価を行います。
レントゲン検査 血液検査や他の検査ではわからない、胸腔内の病変や、心疾患の評価、腹部のレントゲンでは腹腔内全体の評価を行うことができます。
腹部超音波検査 腹腔内の病変の評価を行うことができます。腫瘍性病変などの評価に優れています。
心臓超音波検査 麻酔をかける上で重要な循環器疾患の評価ができます。
小型犬で多い僧帽弁閉鎖不全症や、猫ちゃんで多い肥大型心筋症の診断や病態の評価を行うことができます。

麻酔前投与

麻酔をかける前に、鎮静剤や鎮痛剤、副交感神経遮断薬などを投与します。

麻酔前投与は麻酔導入前の動物のストレスを軽減し、麻酔導入・維持を円滑にし麻酔薬や手術による副作用を軽減するために行います。
鎮静剤を使用することで術前の興奮を抑えスムーズな麻酔導入を行えるようになります。また、麻酔導入時の薬の必要量を抑える効果もあります。

術前から鎮痛剤を使用し、動物に対する痛みの侵襲を抑えます。また、気管挿管時の動物に対する刺激を抑えることができます。
副交感神経遮断薬は麻酔薬による徐脈(心拍数の低下)を予防したり、気道内の分泌物を抑える効果があります。

麻酔導入

麻酔導入とは通常の意識状態にある動物を無意識(睡眠)状態へ人工的に移行させることです。動物を麻酔下に導く段階です。
ここから動物は意識を消失し麻酔下の状態に入ります。

注射麻酔薬により動物の意識を消失させ、挿管(気管に気管チューブを挿入)します。
これにより、無呼吸状態になっても人工呼吸による呼吸管理を行うことができます。

麻酔導入時には意識を消失させるために呼吸や循環を抑制する作用が強い薬剤を使用します。その際に無呼吸状態や低酸素状態になりやすく、麻酔導入は麻酔覚醒とともに麻酔下において最も事故が起こりやすい過程と言われています。そのため速やかな気道確保と循環モニタリングが重要となります。

各種のモニター類を装着し、動物の循環状態や換気状態を把握します。麻酔中はこれらのモニターや動物を直接観察することにより動物の全身管理を行います。

外科手術の場合にはこの後に、剃毛や消毒など処置に入る前の準備を行います。

麻酔維持

ここからが目的の処置を行う段階です。意識や痛みや筋肉の緊張がない状態でしかできない処置をすることになります。

麻酔維持には吸入麻酔を使用することがほとんどです。
当院ではイソフルランという吸入麻酔薬を使用します。
生体内での代謝が早いため、持続的に吸入させることで麻酔状態を維持します。
脳の神経系を抑制しますが脳の血流や脳の循環に対する作用は軽微です。用量に応じた呼吸循環抑制作用があるため、麻酔中は吸入麻酔薬の濃度を細かく調整する必要があります。

安定した身体の状態を維持するために、麻酔深度の調整をしたり、血圧や心拍数を補正する薬剤を使用したり、鎮痛剤を使用します。
痛みを伴う処置を行う場合には点滴で鎮痛剤を使用したり、長時間の手術や高齢動物の処置、高リスクの動物には循環補助剤を点滴で投与します。

この麻酔維持は麻酔下において1番長い時間の段階なので、この時の麻酔の管理が術後の合併症に大きく関わってきます。

麻酔覚醒・抜管

麻酔下での目的の処置を終えて動物が麻酔から覚める段階です。

吸入麻酔を止めて徐々に麻酔から覚めていきます。
ここでは麻酔の覚め具合を、動物の反射や心拍数などを参考に推測していきます。動物が目を覚まし、自分で呼吸できるようになった段階で気管チューブを抜去(抜管)します。

麻酔において麻酔導入と麻酔覚醒・抜管の過程が最も事故が起こりやすいといわれているので、特に慎重に動物の状態を観察しながら行っていきます。

覚醒後の管理

麻酔から覚めた後も注意深く動物の状態を観察していきます。

麻酔下では動物の体温は下がりやすくなるため術後にはしっかり保温を行います。

痛みを伴う処置では麻酔後にも痛みが残ることが多く、特に心疾患を持っている動物では痛みによる交感神経の興奮により心不全を起こすリスクが高くなるため十分に術後鎮痛を行うことが重要になります。術後にはそれに伴う合併症などのリスクも伴うため、輸液や抗生剤の投与などをしっかり行いながら動物のわずかな変化をキャッチしなければなりません。

麻酔実績

2019年度、当院では総計649件の吸入麻酔を行いました。
※画像はクリックすると拡大表示されます。

麻酔実績 犬

麻酔実績 猫